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「選択することで未来は変えていける」POWアンバサダーを務めるプロスキーヤー・小野塚彩那インタビュー

フリーライドスキーで世界にフィールドを広げるプロスキーヤー・小野塚彩那。気候変動に立ち向かう「POW JAPAN」のアンバサダーとしても活躍する彼女に、環境問題をはじめ自身の取り組みに対する想いなどを聞いた。

Protect Our Winters Japan(以下POW)のアンバサダーとして活動を始めたキッカケを教えてください。

最初は、今アスリートをやらせていただいている「THE NORTH FACE」からのお話でした。当時はPOWのことを全く知らなかったのですが、活動を知ってぜひやってみたいと思い始めました。

PHOTO : Freeride World Tour

小野塚さんは実際に世界での活動を通して、どのような部分で環境の変化や気候変動を感じていますか?

選手だった頃に、海外遠征先のヨーロッパで氷河に感動したんですけど、今になって同じ場所に行った時、氷河の激しい後退を目にしました。世界だけでなくて日本国内でも雪が多い年と少ない年が、近年では明らかに激しい。降らない年や大雪の年があったり。実際私たちのフィールドは、雪がないと活動できないので。あとは気温の問題ですよね。今は山やバックカントリーエリアに入って滑ることが多いんですけど、雨が降ったり気温が上昇すると、雪崩のリスクも非常に上がりますし、8,000級の山・マナスルでは、たくさん雪崩が起きている。THE NORTH FACEアスリート USチームのキャプテン・ヒラリー・ネルソンがマナスルで亡くなったことも非常に衝撃的なニュースでした。
自分はそういうフィールドにはまだ行ってないですが、キャンプや遠征を中止するチームが出たり今年は危険だと言われてる中で、そういうニュースが頻繁に入ってくるというのは、そこで活動するアスリートたちに直接的に影響を与えていると感じています。

それは新潟や地元の南魚沼でも感じていますか?

昔は新潟市内で雪が降って動けなくなることってあまり無かったと思うんですが、最近はよくあると思うんですよね。これまで降らなかったところに降ったり、降雪量が多くなったり、逆に降らなくなったり、本当に気象状況が極端になっている気がします。
南魚沼では近年でいうと、2019年は非常に少雪で、今までスキー場が頑張って4月上旬まで営業していたのが、3月の3週目までにクローズしたり、下まで滑ってこれない状況が何年も続きました。昨年は反対に雪が多かったのですが、溶けるのもすごく早かった。それだけ気温が上昇しているんです。あとは、ハイシーズンの寒暖差が非常に極端な感じがします。南魚沼は日本海で発生した水蒸気が山にぶつかり上昇気流となって雪が降るのですが、温暖化が進んで水蒸気の量が多くなると短期間に降る雪の量が多くなる。いわゆるドカ雪になる一方で、降らない時は降らなかったり、気温が高いために湿った雪やハイシーズンに雨が降る印象がありますね。

小野塚さんはPOWのアンバサダーとして、どのような活動をされていますか?また、その中で思い出に残っている出来事を教えてください。

POWから依頼が来て小学校の授業に行ったり、スキー場に向けた講演会を行なっています。POWの活動以外にも、「Ayana’s Return Project」という名前で個人でも活動していて。南魚沼市の教育委員会や地元の企業からもご協賛をいただいて、小学校で自分のキャリアや夢、活動などを話しています。そこでは、必ず環境問題に触れる時間を作っていて、POWのアンバサダーとして勉強してきたコンテンツ「Hot Planet Cool Athletes※」を自分なりに小学生向けに話すのですが、中高生向けで数字も多く難しい内容なので小学生が楽しめるようにクイズ形式にしてみたり、自分なりに工夫しています。せっかくのソロプロジェクトなのでPOWを活用しながら、環境問題に触れて、子ども達に興味を持ってもらえたらなと思って。
授業を受けた子ども達には、エコバックをプレゼントしています。買い物袋って身近だと思うんですよ。どうしてそれが有料になったのか。その理由も含めて選びました。

他にはプロジェクトの一環として地元の石打丸山スキー場で行なったマウンテンクリーンでは、親御さんにも参加していただきました。自分たちが直面している環境問題を、「自分たちが選択することで未来は変えていけるんだよ」ということを伝えたかったんです。実際にPOWでの経験が非常に身になっていますし、そういう形でちょっとずつ、アンバサダーとして活動できてるのかなと思いますね。あとは、オリンピックメダリストが話すことに意義を感じてるので説得力もあるのかなって。そういうところうまく使うのは、ちょっとずるいんですけど(笑)。

実際に子ども達の反応はいかがでしたか?

子ども達の集中力は短いので、最初にオリンピックのキャリアの話をするときに、メダルを見せて全員に触ってもらうんですよ。それもプロジェクトの醍醐味の一つというか。「オリンピック見たことある?」「メダルって触ったことある?」というところからまず入るんですけど、そこで子ども達の心をしっかり掴んで、最後まで集中してもらう。そうすると興味がこっちに向いてくれるので、活動を知ってもらって、最後にエコバックをプレゼントするというところまでの流れが、ストーリーとしてしっかりできるんです。子ども達の反応は非常によくて、授業では「やらないで後悔するならやって後悔した方がいいよね。」とか「チャンスは誰にでも巡ってくるけど、掴むか掴まないかっていうのは自分次第だよね。」って話をすると結構響くみたいで「僕もチャレンジしようと思った。」とか、お礼のお手紙をもらうと嬉しいですね。

PHOTO : cozi(studio Roop)

ご自身の話に移ります。オリンピック出場、出産、子育てから、昨年のFWT Japan 白馬で優勝されたと伺いました。ご自身の環境の変化から、スキーとの向き合い方などに考え方は変わりましたか?

子どもができたことで、保育所から電話がかかってきたらどうしようとか、自分のことに集中できない時間が増えて、今まで選手一本でやってきたことがそうはいかない。ネガティブなことはないんですけど、自分がやりたいことは制限されている感じはします。やっぱり女性にとって妊娠、出産、子育ては大きなライフイベントだと思うし、時間を取られるので、そこで諦めなきゃいけないことが多い人ってたくさんいると思うんですよね。でも私は諦めたくなかった。同じような女性達には、大会に出て優勝したり、私が活動を続けることで、勇気を持ってもらえたらいいなと思っています。

環境問題への考え方にも変化はありましたか?

大会に出続けてるのも子どもと一緒に表彰台に乗りたいっていう想いがあって。子どもがスキーをやりたいってなった時に雪を残せる世代って私たちが最後だと思うんです。後2〜3年、今の生活をみんなが続けていたら、70、80年後には雪が降らなくなると言われていて。もし息子の代にそうなったら、自分の子どもや孫が雪を知らないっていうのは一番悲しい。でもそれは、雪山をフィールドにする人たちが発信することで変わるのかなと。

未来のスノーシーンのために、今私たちが取り組めることはありますか?

個人でできることって、非常に限られてると思うんですよね。ペットボトルを出さない、ゴミを減らす、電気を選択するとか。でも、どちらかというと、取り組んでる企業から選択する方が私たち個人がやれることって多いと思うんです。ですが、それを知らない人たちも多いので、もっとインフルエンサー的な人たちが伝えたり、POWを知ってもらって地球温暖化や気候変動に疑問を持つことが大事になってきます。POWの活動については、HPにすべて書いてあるのでぜひ見てください。環境問題に取り組む方法や、活動を通して必要なことがわかってくると思います。あとは、そこでコミュニティに興味を持ったりだとか、自分のコミュニティを広げたりを続けたり。私たちも発信していかないといけないですし、それを見た皆さんも感じてもらえたらと思っています。実際、今の環境が直接的に関係なくても、例えば雪が降らなくなることでこれまで雪として山に蓄えられていた水源が少なくなり、農業に影響したりだとか、自分たちの生活に関わってくるっていうのを知ってもらえたら、またちょっと変わっていくはずです。

※Hot Planet Cool Athletes:世界の舞台で活躍してきたPOWアンバサダーが中・高校学校に訪問し、地球温暖化や環境問題を一緒に学び、考える環境教育プログラム。

PROFILE
小野塚彩那
新潟県南魚沼市出身。スキー・フリースタイル女子ハーフパイプ銅メダリスト。2シーズン連続W杯年間総合優勝を達成。2017年には世界選手権で金メダルを獲得した。現在はフリーライドスキーに転向、Freeride WorldTour で日本人女性初のワイルドカードを獲得。2019年には「THE NORTH FACE」のアスリートや「POW JAPAN」のアンバサダーとしても活動している。
スポンサー : THE NORTH FACE / ATOMIC / Jeep / 日本スキー場開発 / SMITH
Instagram:ayana_onozuka
HP:http://s-rights.co.jp

POW JAPAN
2007年、地球温暖化が雪山に大きな影響を与えることに危機感を感じたプロスノーボーダー・JEREMY JONESが仲間たちとともにProtect Our Winters (POW) を設立。その後、POWの活動は世界13ヶ国に広まり、2019年2月、世界各国で活動が広がるPOW INTERNATIONALと同じミッションを掲げ、スノーボーダーの小松吾郎を中心にProtect Our Winters Japanの活動がスタート。
HP : https://protectourwinters.jp/

SNOW HEAVENに関する売り上げの一部を、POW JAPANへ寄付します。

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