冬を守るためには。気候変動に立ち向かう「POW JAPAN」が、この冬、脱炭素化、サステナブル化を目指すスキー場をサポートする取り組み「SUSTAINABLE RESORT ALLIANCE」を始動する。活動を前に地域の魅力を知るPOWアンバサダーでプロスキーヤー・河野健児さん、プロスノーボーダー・佐藤亜耶さんがスキー場の未来を考える。
佐藤 私は両親がスノーボーダーで関東に住んでいたため、スキー場には毎週新幹線や車で行っていました。姉が3歳、私が2歳くらいの時に、Iターンが流行り始めて家族で移住。そこから本格的にスキー場に行くようになりました。
佐藤 今まではずっとハーフパイプとスロープスタイルの競技をしていたのですが、この4年ぐらいでバックカントリーとフリーライディングにシフトしました。歩いて山を登ったり、滑っている様子を撮ってもらうのがメインの活動。撮影やイベントがあったら地元を拠点に色んなところに行っていますね。
佐藤 津南町には現在スキー場が1つあって、県内外から訪れた人が泊まってスノーボードやスキーをするのがメインになっています。10年前くらいまでは町にもう1つスキー場があって、町民が滑ったり、小中学校のスキー授業としても活用されていましたが廃業してしまいました。ここ数年で子どものスキーヤーもほとんどいないし、雪離れしているのが津南町の現状。野沢温泉村では子どもの時から雪に触れて、生活の一部として認識されているのに対して、私が住んでいるところは雪は邪魔なものという意識がまだある。それどころか、どんどん活用の仕方も分からなくなっているような感じがします。どこに住んでいるかによって、雪やスキー場に対する意識、必要性の感じ方も全然違うことを話を聞いて思いました。津南町は奥深いところにありますし、雪が降り過ぎると逆に外からアクセスしにくくなるので、誰でも行ける場所にしていかなくてはいけない。実際、人口や過疎化なども問題になっています。
佐藤 私は季節のずれを感じます。雪が降り始めるのが遅いし、一番降る時期も掴めない。いつもだったら12月末から1月くらいは毎日のようにたくさん降る日が続くのに予測が難しい。今年3月末から4月に北米のユタ州に行った際、普段の2倍以上の積雪があって、しかも最新積雪量が更新されたのが4月に入ってから。いつもだったらTシャツで外を歩いてた時期に、毎日大雪で道も雪崩てしまって。単純に「雪が降ったからいいじゃん」とか「降ってないからヤバい」ってことじゃなくて、総合的に地球の変化を判断するのはすごく大事になってきている気がします。変化を長期間で見れるようになったら、みんなの意見がちょっと変わってくるはずです。
河野 20年前、野沢で10月の末に雪が降って滑りました。11月の中旬ぐらいまでは、まず降ることはないですよね。
佐藤 逆に私の周りの若い世代は危機感っていう意識はあんまりなくて。「SDGsって何?」みたいな子もたくさんいます。だから私の周りの世代に意識してもらうための活動をやらなきゃいけない。健児さんみたいな取り組みがあれば、私の様に発信できることもあるだろうし、その場所によって取り組み方が違うと思います。
文化、海、山、雪などを短時間で全部回れて感じられるというところが日本の魅力。だからもっと世界に先駆けて自然を守っていく必要がある。その中で野沢温泉村は完全自然資源依存型の観光地なのでさらに自然を守らないといけないのかもしれません。
佐藤 私が普段滑っている石打丸山スキー場がある湯沢エリアは、関東から来る人がほとんど。今は冬のレジャーとしてスキーやスノーボードをしに来る人が多く、最近は若い方も増えてきました。でもだからといって、その山や地球環境への意識が強まることはまだないと思うんです。だけど、SUSTAINABLE RESORT ALLIANCEが進めば、スキー場に行くことで、みんなの意識が少し変わっていくはず。今は意識していなくても、滑りに来る人みんなの頭の中に地球や地域の環境のことが思い浮かぶように変わっていけばうれしいですね。
佐藤 同じように知ることやアクションを続けることが大事だと思います。アップデートされていくことがたくさんある中で、知る機会がないと活用できない。せっかく加盟しているスキー場があるけど、それを知らないから別のスキー場に行ったとか、今起きていることを知って、それをどう判断して行動していくかが大事だし、自分たちのフィールドのためにもなるはずです。
佐藤 湯沢エリアや新潟は新幹線が通っているので、移住してきた私たちだけでなく関東圏から来る人の方がこっちの山を楽しんでると感じます。地元の方がキャンプや山登りをしたことがなかったり、スキーをしないという方が多い。なので地元や近くに住んでいる子どもたちにここには素晴らしい遊び場があることを伝えていきたいと思っています。
日々変化し続ける環境問題を前に、私たちの遊び場となるスキー場を守っていくためには。大きなテーマを前に、個人でできることは限られているかもしれない。だからこそ、まずは環境活動に取り組むスキー場や地域の問題を知ることから始めてみる。小さな意識は応援に繋がり、いつか未来は変わっていくはずだ。
POW JAPAN
2007年、地球温暖化が雪山に大きな影響を与えることに危機感を感じたプロスノーボーダー・JEREMY JONESが仲間たちとともにProtect Our Winters (POW) を設立。その後、POWの活動は世界13ヶ国に広まり、2019年2月、世界各国で活動が広がるPOW INTERNATIONALと同じミッションを掲げ、スノーボーダーの小松吾郎を中心にProtect Our Winters Japanの活動がスタート。
SUSTAINABLE RESORT ALLIANCE
「冬を守る」というムーブメントに賛同し、「脱炭素化」や「サステナブル化」を目指すスキー場のネットワークおよびスキー場をサポートする取り組みです。
PROFILE
プロスキーヤー 河野健児
野沢温泉村生まれ。アルペンスキーからスキークロスへと活動の場を移しながらワールドカップやX Gamesに出場。12年間に渡ってナショナルチームとして活躍。引退後は、世界中の山々を滑りながら野沢温泉をベースに北信州エリアの山を開拓。VECTOR GLIDEのスキーの開発も手がける。夏は「nozawa green field」では野沢温泉の楽しみ方を提案するなど、1年を通して故郷の魅力を発信し続けている。
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プロスノーボーダー 佐藤亜耶
新潟県津南町で育つ。3歳からスノーボードを始める。幼少期よりフリースタイルを中心に活動し、13歳でのプロ資格を取得。ハーフパイプやスロープスタイルのコンテストで注目を集める。近年はフリーライドに活動の軸足を移し、JAPAN FREERIDE OPEN4連覇中。
スポンサー:THE NORTH FACE/VANS/DRAGON/Hydroflask/high push/GALLIUM WAX/kem`s tune up/石打丸山スキー場
撮影場所:MusicBar GURUGURU
住所:長野県下高井郡野沢温泉村豊郷9492
HP:https://www.nozawa-onsen.co.jp/guruguru
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Interviewer:Takamitsu Sakai
Editer:Minako Kaneko
Photo : KEISKE NAMBA(Studio Thyme)