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「スキー場の未来について考える」POW JAPANアンバサダー・河野健児さん、佐藤亜耶さんインタビュー

冬を守るためには。気候変動に立ち向かう「POW JAPAN」が、この冬、脱炭素化、サステナブル化を目指すスキー場をサポートする取り組み「SUSTAINABLE RESORT ALLIANCE」を始動する。活動を前に地域の魅力を知るPOWアンバサダーでプロスキーヤー・河野健児さん、プロスノーボーダー・佐藤亜耶さんがスキー場の未来を考える。

まずはスキー場との出会いを教えてください。
河野 私は野沢温泉村生まれで、物心ついた頃から野沢温泉スキー場で滑っていました。裏山みたいな感覚で小さい頃は常連の方に教えてもらうこともありましたね。

佐藤 私は両親がスノーボーダーで関東に住んでいたため、スキー場には毎週新幹線や車で行っていました。姉が3歳、私が2歳くらいの時に、Iターンが流行り始めて家族で移住。そこから本格的にスキー場に行くようになりました。
Rider:河野健児、Photo:RanyoTanaka
ホームマウンテンでの具体的な冬のシーズンの過ごし方や今の活動を教えてください。
河野 国内外でライドしているというよりは、プロダクト開発や、地域に深くコミットした動きに近年はなってきています。VECTOR GLIDEというブランドでのプロダクト開発や試乗会、撮影、さらにTHE NORTH FACEでも日本企画のプロダクト開発やプロモーションビデオの撮影など、ブランドを通してスキーの魅力を広く伝える活動を行っています。
Rider:佐藤亜耶、Photo:Ayako Niki

佐藤 今まではずっとハーフパイプとスロープスタイルの競技をしていたのですが、この4年ぐらいでバックカントリーとフリーライディングにシフトしました。歩いて山を登ったり、滑っている様子を撮ってもらうのがメインの活動。撮影やイベントがあったら地元を拠点に色んなところに行っていますね。

野沢温泉村はスキー場を中心とした地域との繋がりが育まれていると思うのですが、コミュニティの中での課題や新たな取り組みはありますか。
河野 昨年の3月に村が小水力発電所を作りました。現在、200世帯分ぐらいの電力を売電していて、約20年後には作った電気を使用する予定。その第2弾としてスキー場の近くの川で電気を作るという話があって、センターハウスの電力をまかなう計画も出ています。野沢温泉村は温泉とスキー場が有名で、100%自然資源に依存型の観光地。滑らない人も温泉に入りますし、生活の場でもあるので、そういう意味で自然を守っていく気持ちは、共通して認識がさらに強まっています。
雪が減ってくるとスキー場だけでなく地域社会にも影響を与えることがよくありますよね。お二人が感じていることはありますか?
河野 野沢温泉は次のシーズンで100周年。元々100年前は地域にとって雪は邪魔者で、野沢温泉スキークラブがスキーを取り入れて発展しました。今でも住民はスキー場がなくなると村が潰れると思っていて、ここ数年で住んでいる我々の意識はかなり高まっているような気がします。野沢温泉スキー場は雪が降らなくなったら、ほぼ営業ができなくなる。その辺はだいぶ危機感はありますよね。

佐藤 津南町には現在スキー場が1つあって、県内外から訪れた人が泊まってスノーボードやスキーをするのがメインになっています。10年前くらいまでは町にもう1つスキー場があって、町民が滑ったり、小中学校のスキー授業としても活用されていましたが廃業してしまいました。ここ数年で子どものスキーヤーもほとんどいないし、雪離れしているのが津南町の現状。野沢温泉村では子どもの時から雪に触れて、生活の一部として認識されているのに対して、私が住んでいるところは雪は邪魔なものという意識がまだある。それどころか、どんどん活用の仕方も分からなくなっているような感じがします。どこに住んでいるかによって、雪やスキー場に対する意識、必要性の感じ方も全然違うことを話を聞いて思いました。津南町は奥深いところにありますし、雪が降り過ぎると逆に外からアクセスしにくくなるので、誰でも行ける場所にしていかなくてはいけない。実際、人口や過疎化なども問題になっています。
スキー場が閉鎖したことによって町の雰囲気は変わりましたか。
佐藤 そうですね。私の同級生にもアルペンスキーをする方も何人かはいましたが、今は学校に何人か、そういう状況にはなっていると思います。
ここからは環境について。この数年、スキー場の環境の変化で感じていることはありますか。
河野 極端な気象状況が多いように感じます。今年の8月、野沢では雨が少なくて昼間は1時間ぐらい、夜も2、3日降ったぐらいだったのでずっと暑かった。冬も雪が一気に降ったり降らないところがあったり。トータルでは雪の量は減っているんですけれど、それよりも1月に雨が降っている方が気にはなりますよね。

佐藤 私は季節のずれを感じます。雪が降り始めるのが遅いし、一番降る時期も掴めない。いつもだったら12月末から1月くらいは毎日のようにたくさん降る日が続くのに予測が難しい。今年3月末から4月に北米のユタ州に行った際、普段の2倍以上の積雪があって、しかも最新積雪量が更新されたのが4月に入ってから。いつもだったらTシャツで外を歩いてた時期に、毎日大雪で道も雪崩てしまって。単純に「雪が降ったからいいじゃん」とか「降ってないからヤバい」ってことじゃなくて、総合的に地球の変化を判断するのはすごく大事になってきている気がします。変化を長期間で見れるようになったら、みんなの意見がちょっと変わってくるはずです。

河野 20年前、野沢で10月の末に雪が降って滑りました。11月の中旬ぐらいまでは、まず降ることはないですよね。
そういった意味では10年単位ぐらいで降り始めの時期や量はかなり変化していると思います。降り方や降水量の変化で活動や、作物に影響が出てきたりなど危機感をもちますよね。
河野 危機感はありますけど、そればっかり言っていられない。私は現在、観光協会長になって水をテーマにまちづくりのブランディングを再構築しています。雪は元々水で、温泉も雪解け水でできている。農作物、お酒も全部水で作られていて原点は森なんです。野沢温泉にある水が次の100年に向けてこの地域を守り、それが地球のためになっていくような形が理想。危機感ばかり声を大にしていたところで悲観につながりかねないので、取り組むことが必要なんだと思います。

佐藤 逆に私の周りの若い世代は危機感っていう意識はあんまりなくて。「SDGsって何?」みたいな子もたくさんいます。だから私の周りの世代に意識してもらうための活動をやらなきゃいけない。健児さんみたいな取り組みがあれば、私の様に発信できることもあるだろうし、その場所によって取り組み方が違うと思います。
野沢温泉スキー場の方で雪不足の対策として取り組まれていることは他にありますか。
河野 小水力発電所を進めたいです。野沢温泉村の姉妹都市・オーストリアのサンクトアントンでは自然エネルギーでリフトを動かす取り組みを先駆けて行っています。海外の方が先に進んでいるので、スキー場を含めて地域全体で事例を参考にしながら、徐々に身の丈に合った形で進めていくのが理想です。
文化、海、山、雪などを短時間で全部回れて感じられるというところが日本の魅力。だからもっと世界に先駆けて自然を守っていく必要がある。その中で野沢温泉村は完全自然資源依存型の観光地なのでさらに自然を守らないといけないのかもしれません。
亜耶さんは国内海外で取り組みをしているスキー場で何か体験されたことはありますか。
佐藤 2020年から8月になるとニュージーランドに行っていたのですが、そこにはクラブメンバーが出資し、当番でスキー場を運営するクラブフィールドと呼ばれるスキー場がいくつかありました。リフトではなく、ロープトゥを回して登山し、ほぼ手つかずの山を滑ったり、野沢温泉スキー場と同じように川を使って発電してロープトゥなどを動かしたり。私が今まで行ったグランドの中で、一番地球への負担も少なく、みんなが最低限のエネルギーを使って滑ることを楽しんでいる場だなと思いました。日本は産業のスキー場というイメージが強かったのですが、初めて純粋に楽しむために運営されている山に行って、もっと住民が自分達の住む山を意識できれば、日本もああいう風になれるんじゃないかと感じました。
その活動の第1歩が今年始動するSUSTAINABLE RESORT ALLIANCEだと思っています。最後にこの先、国内のスキー場はどういう風に変わってほしいですか?
河野 最近、野沢温泉の100年後のことを考えています。スキー場のリフト、ゴンドラ、電気にしても水で全てをまかなえる。電力需給率、食料自給率というところになるんですけど、全て森が作り出す水で完結する場所になったら面白いと思っています。今後は、ホテルで出す朝食を16キロ圏内から自転車や徒歩で取りに行くという取り組み「10マイルブレックファースト」を社員研修で行う予定です。そういうところから始めて100年後には全部まかなえる地域になれば面白い。2015年にはSUPで信濃川を源流から海まで下って、新潟の河口まで行ったんですけど、流域を進むほど川は汚くなる。自分たちの地域を良くしていって、結果的に他の地域につなげるというのは小さな使命です。

佐藤 私が普段滑っている石打丸山スキー場がある湯沢エリアは、関東から来る人がほとんど。今は冬のレジャーとしてスキーやスノーボードをしに来る人が多く、最近は若い方も増えてきました。でもだからといって、その山や地球環境への意識が強まることはまだないと思うんです。だけど、SUSTAINABLE RESORT ALLIANCEが進めば、スキー場に行くことで、みんなの意識が少し変わっていくはず。今は意識していなくても、滑りに来る人みんなの頭の中に地球や地域の環境のことが思い浮かぶように変わっていけばうれしいですね。
お二人のビジョンに対して滑り手側が起こせるアクションはありますか。
河野 正解なのか、間違っているのかは別としても、自分が思ったことを常にアクションし続けることが大事。住んでいる人や場所、立場などが変わってきても何でもいい。とにかく自然の中で遊べば、守らないといけないというマインドにはなる。スキー、スノーボードの魅力を伝えるような活動もしているので、好きな人に対してはもちろん、全くやらない人たちも引き込んでいくというのが我々の役目の一つだと思います。

佐藤 同じように知ることやアクションを続けることが大事だと思います。アップデートされていくことがたくさんある中で、知る機会がないと活用できない。せっかく加盟しているスキー場があるけど、それを知らないから別のスキー場に行ったとか、今起きていることを知って、それをどう判断して行動していくかが大事だし、自分たちのフィールドのためにもなるはずです。
自身の経験からプレーヤーになっていく子供達や、ローカルの子供達のためにどうすれば環境を守れると思いますか。
河野 テクノロジーが進むほど、自然に身を置くことが魅力を増していくと思うので、体験の場を作ってあげることが重要かな。あとは彼らが考えてアクションを起こしていく。さっき100年後の町が完全にオフグリッドで電力、食料自給率について話しましたが、根本の考えは今私が運営しているキャンプ場がほぼそれに近い。自分達で野菜を取って、電気はソーラーで作る、湧き水が湧いていたり。体験をさせたい親御さんも増えています。

佐藤 湯沢エリアや新潟は新幹線が通っているので、移住してきた私たちだけでなく関東圏から来る人の方がこっちの山を楽しんでると感じます。地元の方がキャンプや山登りをしたことがなかったり、スキーをしないという方が多い。なので地元や近くに住んでいる子どもたちにここには素晴らしい遊び場があることを伝えていきたいと思っています。

日々変化し続ける環境問題を前に、私たちの遊び場となるスキー場を守っていくためには。大きなテーマを前に、個人でできることは限られているかもしれない。だからこそ、まずは環境活動に取り組むスキー場や地域の問題を知ることから始めてみる。小さな意識は応援に繋がり、いつか未来は変わっていくはずだ。

POW JAPAN
2007年、地球温暖化が雪山に大きな影響を与えることに危機感を感じたプロスノーボーダー・JEREMY JONESが仲間たちとともにProtect Our Winters (POW) を設立。その後、POWの活動は世界13ヶ国に広まり、2019年2月、世界各国で活動が広がるPOW INTERNATIONALと同じミッションを掲げ、スノーボーダーの小松吾郎を中心にProtect Our Winters Japanの活動がスタート。

SUSTAINABLE RESORT ALLIANCE
「冬を守る」というムーブメントに賛同し、「脱炭素化」や「サステナブル化」を目指すスキー場のネットワークおよびスキー場をサポートする取り組みです。

PROFILE
プロスキーヤー 河野健児
野沢温泉村生まれ。アルペンスキーからスキークロスへと活動の場を移しながらワールドカップやX Gamesに出場。12年間に渡ってナショナルチームとして活躍。引退後は、世界中の山々を滑りながら野沢温泉をベースに北信州エリアの山を開拓。VECTOR GLIDEのスキーの開発も手がける。夏は「nozawa green field」では野沢温泉の楽しみ方を提案するなど、1年を通して故郷の魅力を発信し続けている。
スポンサー:THE NORTH FACE/VECTOR GLIDE/Sweet Protection/OAKLEY

プロスノーボーダー 佐藤亜耶
新潟県津南町で育つ。3歳からスノーボードを始める。幼少期よりフリースタイルを中心に活動し、13歳でのプロ資格を取得。ハーフパイプやスロープスタイルのコンテストで注目を集める。近年はフリーライドに活動の軸足を移し、JAPAN FREERIDE OPEN4連覇中。
スポンサー:THE NORTH FACE/VANS/DRAGON/Hydroflask/high push/GALLIUM WAX/kem`s tune up/石打丸山スキー場

撮影場所:MusicBar GURUGURU
住所:長野県下高井郡野沢温泉村豊郷9492
HP:https://www.nozawa-onsen.co.jp/guruguru

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Photo : KEISKE NAMBA(Studio Thyme)

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